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札幌高等裁判所 昭和44年(ネ)310号 判決

主文

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

(求める裁判)

控訴人ら代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

(被控訴人らの請求原因)

被控訴人ら代理人主張の請求原因事実は、原判決二枚目表七行目から三枚目表一行目まで、および三枚目表五行目から同七行目まで、ならびに一一枚目の別紙目録と同一であるから、これを引用する。

(控訴人小林の答弁)

控訴人ら代理人は、控訴人小林の答弁として「被控訴人ら主張の請求原因事実中、別紙目録記載の不動産(以下「本件不動産」という)についての登記関係は認め、その余は争う。」と述べた。

(控訴人神居石油株式会社の答弁)

控訴人ら代理人は、控訴人神居石油株式会社(以下「神居石油」という)の答弁として「被控訴人ら主張の請求原因事実中、被控訴人らが訴外小林ツゲに対しその主張のとおり金銭を貸し渡し(以下「本件貸金」という)、本件建物について停止条件付代物弁済契約を締結したことは否認し、被控訴人らが同訴外人に対しその主張の如き訴えを提起し、勝訴判決をえ、これが確定したことは不知、右建物についての登記関係は認める。被控訴人らの仮登記は、同訴外人の夫の訴外小林勇作が自己の被控訴人らに対する消費貸借契約上の債務を担保するため、ツゲに無断で、もしくはその承諾のもとに右建物に抵当権を設定し、その登記手続を被控訴人らにまかせたところ、被控訴人らがほしいままに停止条件付代物弁済契約を原因とする仮登記を経由してしまつたことによるものである。」と述べた。

(控訴人両名の抗弁)

控訴人ら代理人は、控訴人両名の抗弁として次のとおり主張した。

一  被控訴人らは、別紙債務表(原判決添付の同名の表を引用する)記載のとおり、訴外小林勇作の訴外旭川信用金庫らに対する債務合計金六〇〇万八、三九五円を代位弁済したが、これに対して別紙弁済表(原判決添付の同名の表を引用する)記載のとおり訴外小林ツゲ、同小林勇作から代物弁済および金員授受の方法で少なくとも合計金九一七万円の弁済を受けた。

右の差額金三一六万一、六〇五円は、過払いであり、訴外小林ツゲは被控訴人らに対してその返還請求権を有するから、控訴人神居石油は、昭和四三年九月四日の原審第五回口頭弁論期日において、訴外ツゲに代位し被控訴人らに対し、右過払金返還債権三一六万一、六〇五円と被控訴人らの同訴外人に対する本件貸金債権元本金四八五万円とを対当額で相殺する意思表示をした。よつて被控訴人らの同訴外人に対する本件貸金債権元本残は金一六八万八、三九五円となつた。

ところで本件建物の価格は、被控訴人らがその主張の停止条件付代物弁済契約を原因とする所有権移転仮登記を経由した時点においても金八五〇万円を下らないものであるから、被控訴人らが停止条件が成就したとして、右建物の所有権取得を主張することは、金一六八万八、三九五円の債権をもつて金八五〇万円を下らない右不動産を取得しようとする暴利行為であつて、公序良俗、信義則に反し、許されない。

二  仮に右主張がいれられないとしても、被控訴人らは昭和四〇年八月一日以降訴外小林ツゲ所有の本件建物を不法に占拠し、同人に賃料相当の損害を被らせた。右建物の賃料相当額は昭和四〇年中は一カ月金九万円、昭和四一年一月以降は一カ月金一〇万円が相当であるから、昭和四五年八月末日までの損害金の合計は金六〇五万円となる(9万円×5+10万円×56)。してみると、訴外ツゲが被控訴人らに対し金六〇五万円の損害金債権を有することになるので、控訴人らは昭和四五年一一月一一日の当審第五回口頭弁論期日において、訴外ツゲに代位し被控訴人らに対し、右損害金債権六〇五万円と、被控訴人らの同訴外人に対する本件貸金債権元本金四八五万円(前記のとおり金一六八万八、三九五円に減少しているが、便宜元本額のままで計算する)に対する昭和三九年四月一〇日から昭和四五年八月三一日までの月一分の割合による利息金三七一万三、〇四〇円および残元本金一六八万八、三九五円とを対当額で相殺する意思表示をした。

それゆえ被控訴人らの本件貸金債権は、既に元利とも消滅したから、被控訴人らは本件建物を取得しえない。

三  仮に右主張がいれられないとしても、被控訴人らが本件建物についてした停止条件付代物弁済契約は、本件貸金債権担保のためのものであるから、本件建物の転売価格または時価から債権額を控除した残額は、清算金としてこれを債務者である訴外小林ツゲに支払われるべきものである。そして右建物の価格が金八五〇万円以上であり、被控訴人の貸金債権の残額が金一六八万八、三九五円であることは既に述べたとおりであるから、その差額六八一万一、六〇五円につき同訴外人が支払請求権を持つ。ところで、同訴外人に対し控訴人小林は金三〇万円、控訴人神居石油は金四〇万二、八九九円の金銭債権を有しているから、控訴人らは同訴外人に代位して被控訴人らに対し、右金三〇万円および金四〇万二、八九九円を各支払い、もつて清算するよう求める。

(被控訴人らの答弁)

被控訴人ら代理人は、控訴人ら両名の右抗弁に対し、次のとおり述べた。

一  被控訴人らが別紙債務表記載のとおり訴外小林勇作の訴外旭川信用金庫らに対する債務を代位弁済したこと、訴外小林勇作らから別紙弁済表一の1、2、二の1、2記載の各不動産につき代物弁済としてその所有権移転を受けたことは認めるが、右各不動産の評価額は争う。右弁済表一の1、2、二の1記載の各不動産は合計で金二九〇万円、同表二の2記載の不動産は金一四〇万円と協定されたものである。また、被控訴人らが同表三記載の金員を受領した事実はあるが、右金員の授受が被控訴人らに対する弁済としてであることは否認する。右金員は、訴外菅井重夫に対する不動産競売事件において、同訴外人からその債権者である訴外旭川信用金庫に金六五万円、同じく訴外鶴山茂光に金五〇万円を支払うためのものである。

二  その余の主張は、被控訴人らの訴外小林ツゲに対する本件貸金債権の貸付日、貸付金額、利息の割合の点を除き、すべてこれを争う。

(控訴人小林の抗弁)

控訴人ら代理人は、控訴人小林の抗弁として次のとおり主張した。

訴外小林ツゲと被控訴人らとの間に、同訴外人が本件建物を第三者に売却し、その代金をもつて被控訴人らに対する本件貸金債務の支払いにあてる旨の合意があつたのに、被控訴人らは右建物を占有して明け渡さず、同訴外人の売却行為を妨害した。被控訴人らの本訴請求は、権利の乱用である。

(被控訴人らの答弁)

被控訴人ら代理人は、控訴人小林の右抗弁に対し、これを争うと述べた。

(証拠)省略

理由

一  成立に争いのない甲第三(ただし、後記措信しない部分を除く)、第四号証、同じく乙第一、第二号証、同じく丙第二号証、被控訴人らと控訴人神居石油との間では成立に争いがなく、被控訴人らと控訴人小林との間では、公文書として真正に成立したものと推認しうる甲第一、第二号証、原審証人小林勇作の証言(ただし、後記措信しない部分を除く)、原審における被控訴人三上正一(第一回)、同畠山助作各本人尋問の結果を総合すると、被控訴人らは昭和三九年四月一〇日共同して訴外小林ツゲに対し、同人の夫訴外小林勇作を連帯債務者として金三五〇万円を貸し渡すとともに、これに従来からの貸金を合わせ、貸金元本四八五万円、弁済期日同年五月一〇日、利息一カ月一分とする準消費貸借契約を締結したこと、そして右契約締結のころ、右の貸金債権を担保するため訴外小林ツゲとの間に、同訴外人らが期日に弁済しないときは、代物弁済として直ちに訴外小林ツゲ所有の本件建物の所有権が被控訴人らに移転する旨の停止条件付代物弁済契約を締結し、同月一四日右代物弁済契約を原因とする停止条件付所有権移転の仮登記を受けたこと(ただし、右仮登記経由の点は、当事者間に争いがない)、しかし被控訴人らは、訴外小林勇作と友人関係にあつた等のことから、右のとおり停止条件付代物弁済契約を締結したものの、期限到来後も直ちに本件建物の所有権取得を主張せず、かえつて、右建物の処分代金から弁済を受けてもよいと考え、翌四〇年二月九日ころには、訴外小林勇作に対し右建物売却の委任状を交付したことが認められる。甲第三号証の供述記載中右認定に反する部分、前記証人小林勇作の証言中右認定に反する部分は措信し難く、乙第二号証中の抵当権を設定した旨の記載は、前記被控訴人三上正一本人尋問の結果に照らし右認定の妨げとならず、その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  前記証人小林勇作の証言により成立を認めうる乙第一〇号証、同証言を総合すると、前記停止条件付代物弁済契約締結当時の本件建物の価格は、約金八五〇万円であることが認められる。

三 成立に争いのない丙第三号証に弁論の全趣旨を合わせ考察すると、控訴人神居石油が昭和三九年二月二八日訴外小林勇作、同小林ツゲに対し、同人らを連帯債務者として金四〇万二、八九九円を貸し渡し、その担保として右ツゲから本件建物に抵当権の設定を受け、昭和四二年一一月四日右抵当権設定登記を経由した(ただし、右登記経由の点は、当事者間に争いがない)ことが認められ、右認定に反する証拠はない。

四 控訴人小林が昭和四二年二月二三日旭川地方裁判所から本件建物につき強制競売開始決定をえ、同日強制競売申立の登記を経由したことは、当事者間に争いがなく、右事実に弁論の全趣旨を合わせると、同控訴人が訴外小林ツゲに対し金三〇万円の金銭債権を有することが認められる。

五 以上の一ないし四記載の事実をもとに考察するのに、まず訴外小林ツゲと被控訴人ら間の本件建物についての停止条件付代物弁済契約は、契約締結時における右建物の価格と、弁済期日までの元利金額とが合理的均衡を欠いており、かつ、被控訴人ら自身弁済期日経過後も条件成就による所有権取得を主張せず右建物の売却処分代金による弁済を了承していた点等に徴すると、同訴外人が弁済期日に債務の弁済をしないときは、被控訴人らにおいて右建物を換価処分し、これによつてえた金員から債権の優先弁済を受け、残額は清算金としてこれを同訴外人に返還する趣旨の債権担保契約であると解する。そして被控訴人らが本件仮登記に基づく本登記手続をなすべく、不動産登記法第一〇五条に基づき、登記上利害の関係を有し、かつ、本件建物からその有する債権について優先弁済を受ける地位を持つ控訴人ら(もつとも、控訴人小林は抵当権その他の優先弁済権を有する者ではないが、既に競売開始決定をえて本件建物から債権の弁済を受ける地位を取得している者であるから、これを本来の優先弁済権者と同様に取り扱うのが相当である)に対して承諾を求めるには、本来は控訴人らの訴外小林ツゲに対する債権額と同額の金員を支払うのと引換えに、その承諾を求めることができるのであるが、本件の場合には、被控訴人らの本訴提起前(このことは記録上明らかである)既に本件建物につき控訴人小林によつて強制競売手続が開始されているのであるから、被控訴人らは、も早前記法条の適用を主張すること、すなわち控訴人らに対し、同人らの有する債権相当額の支払いと引換えであつても前記承諾を求めることは許されず、既に開始されている右競売手続に参加してのみ自己の債権の優先弁済をはかりうるにとどまるといわねばならない(最高裁判所昭和四五年三月二六日判決、民集二四巻三号二〇九ページ参照)。

六 そうしてみれば、被控訴人らの本訴請求は、その余の争点につき判断するまでもなく失当として棄却を免れないといわねばならない。よつてこれと結論を異にする原判決を取り消し被控訴人らの請求を棄却すべきものとし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第九三条にしたがい、主文のとおり判決する。

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